Figure skating Protection Union

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新採点誕生の経緯

新採点誕生の発端となったのは、ソルトレイク・スキャンダルと言われています。
この事件と新採点の関わりを時系列に記述します。

2/11 ペアのフリーが行われ、疑惑の判定がくだされる。
   僅かなミスがあったロシアペアが優勝
   ノーミスのカナダペアが2位
   
   北米メディアが、ノーミスのカナダペアが優勝できないのは
   おかしいと、報道をはじめる。
   
2/12 ISUの技術委員会でフランスジャッジのルグーニュが不正を認
   める発言をするが、結局ルグーニュは後に署名入りの文書にお
   いて「圧力は存在せず、自分はロシア組の優勝を確信している」
   と表明したが、アメリカ・カナダ両国民や両国マスメディアは
   この結論に納得せず、騒ぎ続けた。
   
2/15 これを受けてISUのオッタビオ・チンクワンタ会長は独自の行動
   を表明。「フランスの審判員に不適切な行為があった」という
   理由を示してフランスの審判員の判定を削除し、1位をつけた
   ジャッジの数を4対4の同数に変更してカナダ組にも金メダルを
   授与した。
   
2/16 「数日以内に新しい採点システムを提案する」と表明。
   
2/18 この日、発表された素案について、チンクワンタ会長は「判定に
   おける国と国の間の裏取引を防ぐためのシステムである」と説明。

チンクワンタ会長は、なぜルグーニュが署名入りの文書において「圧力は存在せず
自分はロシア組の優勝を確信している」と表明したにも関わらず、あっさりと不正
を認めたのでしょうか。
そして、すぐに新しい採点システムを発表できたのは、どうしてでしょうか。
ここで、日本が関係してきます。2006年10月4日の読売新聞より。

<ポスト固執 接待攻勢>

【2002年転落の始まり】
日本スケート連盟の不透明な経理に3日、捜査のメスが入った。スケート界に君臨
した「ドン」久永勝一郎・元会長と、資金管理を仕切っていた松本充雄・元専務理
事の逮捕。捜査員に連行される、2人の表情は硬く、権勢を誇ったかつての姿はな
かった。   
栄華の中にいた久永容疑者の転落が始まったのは、2002年6月の国際スケート
連合(ISU)京都総会だった。ISU100年の歴史で初のアジア開催となった
総会で、久永容疑者はISU副会長の座を失ってしまった。   
総会に対する、久永副会長の力のいれようは相当なものだった。   
ホテル代や交通費はISU本体が負担したにもかかわらず、日本スケート連盟は諸
経費に約5000万円を注ぎ込んだ。保津川ライン下りの観光ツアーを準備したり
(実際は雨天中止)、ちょうど開催中だったサッカーW杯日韓大会の入場券を用意
したという話もあった。「副会長再選を狙うための過剰な接待があった」との指摘
は当時からあったが、肝心の選挙で久永容疑者は落選。自らが先頭になって招致に
成功した地元・日本の総会で大恥をかくことになり、その剣幕は大変なものだった
という。   
京都総会の最大のテーマは、フィギュアの採点方法で、旧採点法にこだわる久永容
疑者と、新採点法を訴えるチンクワンタ会長が激しく対立した。結局、会長側が勝
利し、この結果が総会最終日の副会長選に影響を与えたと言われる。この後、新採
点法に反対する米国を中心に、世界スケート連盟(WSF)という新組織が発足。
久永容疑者は「賛同」の意向を示していたが、チンクワンタ氏の猛烈な切り崩しも
あって組織は雲散霧消となり、WSFに肩入れしていた久永容疑者のISU内での
影響力は、ほとんどゼロになった。   
その後、NHK杯準備金の私的流用が連盟内で明らかになり、04年6月、念書を
取られたうえで会長を退任した。疑惑発覚後は強気な姿勢を見せていたが、その後
に一部金額を弁済、今年6月には、連盟側に和解を申し入れる(連盟は拒否)など
「ドン」の面影は消えていた。

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この記事の中で触れられている、採点をめぐる対立とは、どのようなものだったの
でしょうか。2002年当時、久永勝一郎氏は、ISU副会長(フィギュアスケート部門)
でした。この地位は、ISUにおけるフィギュアスケートに関する全ての権限の頂点
にいるということです。しかし、彼や「技術委員会(ISU憲章に基づきフィギュア
競技の技術面を監督する義務と権限を持つ責任ある立場にある)」の知らないとこ
ろで、新採点システムのプロジェクトは進行していたのです。
そうでなければ、あのスキャンダルの一週間後に、新採点システムの素案を発表す
ることは不可能です。つまり、チンクワンタ会長側は、スキャンダルの騒ぎに便乗
して、秘かに進めていた新採点システムへの変更を実行に移したと言う訳です。   
そして、2002年6月、京都で行われたISU総会で、チンクワンタ会長と対立した久永
氏は、カナダスケート連盟会長でチンクアンタ支持者のデヴィッド・ドレ氏に敗れ
て副会長の座を失ってしまうのです。
   
しかし、このシステムには、日本だけでなく、アメリカもオーストラリアも反対し
ました。そしてジャッジの匿名性については当時から問題になっていました。
2003年3月13日に、日本スケート連盟は、ISUに対して抗議を行いました。抗議の内
容は、2002年の京都の総会では新採点システムに関する開発および試験の「プロジ
ェクトの開始の許可」を与えられたもので、関係者達はこのプロジェクトで開発中
のシステムは2004年の総会に提出されると考えていたのですが、ISUは、2002年12
月27日にプレスリリースを発表し、京都の総会ではプロジェクトではなく、ルール
を採択したと表明したのは、歴史を書き換えるようなものだとしてます。
   
それに対し、ISU側は、2002年のISU京都総会では、フィギュアスケートの暫定的ジ
ャッジングシステムを採択し、現行のジャッジングシステムとしてすぐに用いるよ
うにした、と反論しています。   
抗議書が3月13日に提出された翌日に、ISUはこの報道発表をしました。

日本側 :緊急提案4は、ルールとしては提出されていない。プロジェクトとして
採決されものである。   
ISU側 :緊急提案4は、ルールとして提出された、なぜなら、提案書に「一般規
則121第3項に適応」と記載している。

ISU側からの主張に対して、久永氏は、最後まで総会では提案4を「ルール」に関
するものだという確認はしていないし、そのための採決もしなかった、と反論しま
した。また、「提案29」は試験用の一案として総会で採択されましたが、後で精
査して「秘密性」という部分で、この案は既存の規則に矛盾し、違反していると述
べています。もちろん、ISUは反論してます。
   
つまり、チンクワンタ会長とデヴィッド・ドレ氏は、緊急提案4と緊急提案29を
セットにして提案していたのです。それがセットだと理解していたのは、新採点シ
ステムをカナダ案で通したかった人間だけでした。   
そこで、提案4(これも採点システムの一案)には「一般規則第3項に適応」と入
れて、総会の説明ではルールに関係しない、プロジェクトとして試験させて欲しい
とチンクワンタ会長は説明したのです。   
提案29は、デヴィッド・ドレ氏が総会で、一つの案として提案・説明したもので
(アメリカや豪州も独自案を提案)、これにはルールのどれに適応という記載はあ
りませんから、そのままで、29案の試験運用は可決されました。   
ところが、総会後、チンクワンタ会長は、提案4と提案29と合体させて、一般規
則第3項に適応として、採択されたと発表したようです。

つまり新採点システムは、ISUメンバーの正式承認を得ないままスタートし、禍根
を残したままの状態で、更に恣意生が強められてしまったと考えられるのです。
現在の副会長は、新採点を提案したデヴィッド・ドレ氏です。
彼の意向で、ジャッジ達は採点を行っている可能性は極めて高いと想像できます。
しかし、新採点システムは、当初は公平に運用しようとしていたのも事実です。

<アイスダンス審判員を除外 不正採点防止に躍起>
   
【トリノ13日共同 2006.2.13】   
国際スケート連盟(ISU)は、17日に始まるトリノ冬季五輪アイスダンスの審
判団からイリーナ・ネクキナ審判員(アゼルバイジャン)を除外したと13日発表
した。度重なる採点ミスで同審判員が降格されたためだが、4年前のソルトレーク
シティー五輪で起きた不正採点スキャンダルからの信頼回復に、神経をとがらせる
ISUの姿勢がうかがえる。   
ISUは、競技会での審判員の採点をモニターし、自国選手に有利な採点やミスジ
ャッジをした審判員に警告を与える。この警告が3年間で4度に達すると資格を降
格。ネクキナ審判員の場合は五輪、世界選手権で採点できる最高ランクから通常の
国際審判員に格下げされた。
   
この記事を読むと、2006年までは、ISUも審判に対して公平な視点を求めていた事
が窺われます。また、これによると、ISUは、審判員をモニターで監視して、不正
採点にならないように注意しているそうですが、それではなぜこの事実を公表しな
いのでしょうか?バンクーバーオリンピックの時も、モニターしていたが、おかし
な採点はなかったと説明すれば、多くのファンは納得するかもしれません。
   
しかし、疑問が残ります。それは、韓国の審判、イ・ジヒ氏の言動です。   
彼女は、キム・ヨナ贔屓の発言を繰り返し、浅田真央に低い得点を与えました。
優勝を争うのは、浅田真央とキム・ヨナだろうと多くの人達は考えていましたから、
日本テレビのバンキシャが撮影した映像で、イ・ジヒ氏が、キム・ヨナのライバル
である浅田真央の得点を低くしているシーンが映りましたが、これは、自国選手に
有利なジャッジを行っていた証拠ではないでしょうか?
   
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なぜ、イ・ジヒ氏は警告すらされていないのでしょうか?今は、そういう監視は行
っていないのでしょうか?   
6月のISU総会では、この問題を徹底的に追及して、フィギュア界のシステム不全
を正し、採点がどの国の選手にとってもフェアなものにしない限り、ISUやジャッ
ジへの批判は、いつまでも続くでしょう。



ジャッジシステムの問題

共同通信が、ISUが、トリノ冬季五輪アイスダンスの審判団からイリーナ・ネク
キナ審判員を除外したことを報じていた内容を紹介し、なぜイ・ジヒ氏は警告すら
受けていないのか?と記述しました。
答えはちゃんと、ISUにありました。
ISUコミュニケーションNo.1401に、演技ジャッジによる採点を数学的に判定するた
めの方法が記述されているのです。
また、ISUにはジャッジ査定委員会(Officials Assessment Commission、略称OAC)
というジャッジの採点を評価・検証する存在もあるのです。

まず、数学的な判定基準ですが、
1.TESは認定されたエレメント数(SPなら8)。
2.PCSは7.5 と定義されています。
この数字は一見すると厳格ですが、実はかなり許容範囲が広いのです。
この判定基準は、9人の演技審判の最高点と最低点を除外して平均値を出し、そこ
からの偏差ということなのです。この偏差の基準値は、ファクターを考慮していま
せんから、SPの場合、男子なら上下に23点、女子なら18.4点の幅があるのです。
もちろん、FSも同様に計算されますから、男子28点、女子21.6点の上下幅が許容
範囲となります。合計すると、男子は51点、女子は40点もの広範囲が許容され
ているのです。
実際には、TESとPCSはそれぞれ別個に判定されますから、単純に加えるのは正しい
方法ではありませんが、これだけ広範囲なら、なかなか採点に異常があるという判
定は出ないでしょう。

また、ジャッジが不正を行う場合、単独での実行であれば、この基準でもある程度
は見つけ出せる可能性がありますが、3名以上で不正を行った場合は、判定するこ
とは不可能に近いでしょう。それは、上下カットによる効果が薄れて、不正ジャッ
ジの得点が平均値に影響を与えるからです。
採点不正が単独で行われたものではなく、3名以上の審判員が関わっていたのでは
ないか?という疑惑は、ここから来ているのです。

では、ジャッジ査定委員会は何のために存在しているのでしょう?彼等は、全く無
力な存在なのでしょうか?
ジャッジ査定委員会は、異なる国籍の審判員がプールされており、メンバーは最高
の意思決定機関であるISUの理事会で指名されています。ISUの大会には、スポーツ
局が認証したジャッジ査定委員会のメンバーが最低3名派遣されることになっており
ジャッジ査定委員会のメンバーは、ジャッジミーティング等には参加しません。
基本的に審判員達や、選手関係者との接触を避けることが求められています。
競技中は審判員達の採点中の様子を監視して、おかしな動きがあればイベントレフ
ェリーに報告します。
ジャッジスコア(匿名のもの)と、偏差を計算して、基準値から外れている採点を抽
出したデータを作成し、競技のDVDを見直して、競技終了後24時間以内にレポートを
作成します。
審判員の基準値から外れている採点については、それがエラーなのか、妥当なもの
なのかについて、見解を記述して、技術委員会に報告し、技術委員会が最終的な判
断を下すことになっています。
しかし、テクニカルスペシャリストやテクニカルコントローラーの重大なエラーに
ついては、事務局長とスポーツ局長に報告することになっており、スポーツ局長が
必要に応じて技術委員会の見解を聞きながら、判定を確定させます。
ジャッジ査定委員会のレポートは、競技結果に対する批判や、採点について評論す
る権限はありません。あくまで、結果の報告のみとなっています。

審判員の警告基準
1.演技審判の場合
 ・基準値から外れている採点と認定されると→警告レベル1
 ・正当な理由無くジャッジミーティングを欠席すると→警告レベル1
 ・レベル4になると、審判員の資格を剥奪される。
*ジャッジ査定委員会にプールされるためには、レベル1以下が必要条件です。

2.技術審判の場合
 ・エレメント判定やレベル判定でエラー認定されると→警告レベル1
 ・演技中に4点以上の影響がある重大なエラーがあった場合→警告レベル3           
  (既にレベル3ならレベル4)
 ・各セッションで必要な準備をしていなかった場合→警告レベル1
 ・レベル4になると、審判員の資格を剥奪される。
これら審判員の査定については、前述したように、ジャッジ査定委員会のレポート
を基に、演技審判については、技術委員会が、技術審判については、技術委員会の
助言を受けて、スポーツ局長が裁定して、最終的には理事会で承認されるというこ
とになります。

一見すると技術委員会と、スポーツ局長は同じ位の権限を持っているように感じま
すが、実は全く違います。
演技審判の判定を検証する基準が極めて広い得点分布を許容しており、ジャッジ査
定委員会のレポートは採点結果についての見解を記述できませんから、おかしな判
定をした審判員という認定はほとんどできないからです。
一方、技術審判については、エレメントの判定やレベル認定などの重要な役割を持
っていますが、専門部署であるはずの技術委員会は助言しかできず、判断はスポー
ツ局長に委ねられているのです。
なぜ、このような歪みとも言えるような形になったのでしょうか?
スポーツ局はもともと大会運営の事務、特に渉外交渉や宣伝、スポンサー営業など
を担当する部署でした。つまり、イベントコーディネーターです。
下部組織にフィギュア・スポーツ担当、スピード&ショートラック・スポーツ担当
が補助的なものとして存在しているようです。
スポーツ局の局長は、ドイツ人のペーター・クリック氏です。
なぜ本来は、実務的な部署であったはずのスポーツ局が、ジャッジ査定委員会と技
術審判員対して、重要な権利を掌握してしまったのでしょうか?
このような規約が成立するには、理事会の後押しがなければ不可能です。

権力を握るきっかけになったのは、新採点制度を起案した「新制度特別委員会」の
メンバーにクリック氏が入ったことです。この時のメンバーはクリック氏、ラケル
ニク氏、ショウ氏、ルンドマーク氏(シンクロ担当)、テッド・バートン氏(技術
顧問)の5人です。
現在、この組織は役目を終えてなくなり、メンバーの中には、現在公的な役職につ
いていない人もいますが、チンクワンタ会長が推し進めた革新的な採点方法の成立
に尽力した功績によって、クリック氏は、その発言力を増大させたと思われます。

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また、クリック氏は「ドイツグループ」と呼ばれる一派であると言われています。
「ドイツグループ」の考え方とは、「音楽表現が、ジャンプより重要」「フィギュ
アスケートは芸術」というもので、彼等の精神的支柱は、カタリナ・ビットです。
カタリナ・ビットが「表現力と芸術性」でジャンパーに勝ったという伝説を拠り所
に、ジャンパーを徹底的に排除しようとするのです。そして、このドイツグループ
は、日本選手を嫌っています。

日本を嫌うきっかけは、伊藤みどりの存在でした。彼女は、女子選手として世界で
初めて公式戦で3−3のコンビネーションジャンプや、3Aを成功させるなど、女子
フィギュアスケート界に数々の金字塔を打ち立て、その傑出したジャンプ技術は、
それまで優雅に氷上を舞う芸術だったフィギュアスケートを、鍛え上げられたアス
リートが技を競い合うスポーツへと変革させたのです。
伊藤みどりは、1989年、「もっとも高得点をとったフィギュアスケーター」として
ギネスブックに掲載され、2004年3月25日には、日本人として初めて世界フィギュア
スケート殿堂入りを果たしました。
1988年2月に高校3年生で出場した、カナダのカルガリーオリンピックでは、苦手の
規定では10位と出遅れたものの、SP・FSともにノーミスの演技を披露し、特に女子
シングルのフリーでは、自国カナダのエリザベス・マンリーと伊藤みどりの二人だ
けが、カルガリーの観衆からスタンディングオベーションを受けました。
この時は、芸術点は伸び悩んだものの技術点では高い評価を得て、総合5位入賞
(ショートだけでは4位、フリーだけでは3位)と健闘しました。
競技終了後、「順位が低いのでエキシビションには呼ばれない」と考えて一旦宿舎
に帰ったものの、呼び戻されて、カルガリー五輪の最終日のエキシビションでは、
最終演技者となって、再びカナダの観衆を大いに沸かせました。
この時の様子を見ていた、カルガリー大会で、前回のサラエボ大会に続いて五輪2大
会連続の金メダルを獲得したドイツのカタリナ・ビットが、「観客はゴム鞠が跳ね
るのを見に来ているわけではない」と、発言したため、「フィギュアスケートは、
芸術かスポーツか」という論争を生むことになったのです。

ドイツグループでは、このカタリナ・ビットの発言が未だに支配的なのです。
ですから、安藤美姫が4回転を跳ぶ事に嫌味を言い、浅田真央の3Aに眉をひそめて
日本人はジャンプしか理解できない、これでは芸術としてのフィギュアスケートが
おかしくなると考えているのです。

ドイツのスケート連盟指導部は、2002年のソルトレーク・スキャンダルと新採
点の採用にあたって、二つに分かれました。新採点を拒否した人間は、チンクワン
タ会長に除名・追放されましたが、クリック氏のように、新採点システムを構築し
た人間は、重用されることになります。ところが、選んだ道は違っても、ドイツグ
ループの理念は変わらないのです。
彼等は、ドイツの国際ジャッジやISU関係者、さらにドイツ連盟の指導者、フィ
ギュア関係の専門家、ジャーナリストなど、多くの人間から成り立っているグルー
プです。日本選手を嫌悪する彼等は、キム・ヨナと急速に接近しました。例えば、
ドイツ専門誌「アイススポルト・マガジン」は、荒川静香や安藤美姫らのオリンピ
ックや世界選手権の優勝者を無視し、浅田真央もスルーして、キム・ヨナを表紙に
しました。
ですから、2007年トリノのグランプリファイナル後に行われたインタビューで、
クリック氏は、「3Aを跳んだ選手が勝てなくても、全く気にすることはない」
「3Aは確かにハイライトだが、他にも重要なことが多数ある」「多くの構成要素、
スピン、ステップ、ムーブメント、音楽の解釈が重要」「そしてキム・ヨナ選手は、
どんな種類の曲であっても、表現できる感性があり、それはジャンプよりも重要なこ
とで、彼女は素晴らしい選手だ」と発言しています。

キム・ヨナを利用して、日本人ジャンパーを撲滅し、芸術がスポーツに勝ることを
立証しようとする、ドイツグループの考えが透けて見えます。
こんなクリック氏という人物が、思いのままにジャッジ査定委員会と技術審判を掌
握して、判定の正否すら決定できる絶対的な権力を握っている状況は、大変な問題
です。また、夫人のシシー・クリック氏も、悪名高きジャッジとして有名な方です。

現在も、演技のルールに関することを扱う技術委員会ですが、2002年の新採点事件
によって、発言力は衰えます。更に、ジャッジ査定委員会への認証権をスポーツ局
に持っていかれ、技術審判の査定権も事実上無くなりました。
現在の技術委員会のメンバーは下記の通りです。
3部門(シングル・ペア、アイスダンス、シンクロ)ありますが、シングル・ペア
と、アイスダンスの委員長のみ記載します。

シングル・ペア委員長  アレクサンドラ・ラケルニク   ロシア
委員          平松純子            日本
            ファビオ・ビアンケッティ    イタリア
            ロタ・ゾネイケン        ベルギー
            マシュー・サボイ        米国  
            オレグ・ワシリエフ(ペア担当) ロシア
アイスダンス委員長   アレクサンドラ・ゴルスコフ   ロシア

注目すべき点は、両部門とも委員長がロシア人であることです。これは2002年
以降変わっていません。旧採点の技術委員会はもともと米国と親米派の拠点でした
が、ソルトレークスキャンダル後の権力闘争で、彼等が脱落した後に、ロシアが入
り込んだのです。

技術委員会は、現在はロシアが主導権を握っていると言っていいでしょう。シング
ル・ペアではロシアが2人、アイスダンス部門もポーランド2人、ハンガリー1人
と、親ロシアの国が多いです。だからこそ、ロシアに権力を掌握されることを恐れ
たデヴィッド・ドレ氏が、ジャッジ査定委員の認証権や、技術審判の査定権をスポ
ーツ局が掌握することに賛同したのではないかとも考えられるのです。
シングル・ペア委員長のアレクサンドラ・ラケルニク氏は、新採点制度を起案した
「新制度特別委員会」のメンバーです。ロシアの主流派(ピセーエフ会長派)で、
ソルトレイク・スキャンダルでの騒動後、ISUから米国勢力を一掃しました。
米国からは恨まれているようです。今までの状況を振り返って見ると、フィギュア
スケート界の重鎮達は、東西冷戦の構図を未だに引きずっているようです。

さて、日本の平松純子氏は、新採点騒動で久永氏が、カナダのデヴィッド・ドレ氏
にその地位を奪われ、日本が理事会から追い出された時に、かろうじて技術委員に
滑り込みました。
ですから、技術委員会は、日本が影響力を発揮できる唯一の組織と言ってもいいで
しょう。クリック氏に押され、デヴィッド・ドレ氏に監視されて、発言力が弱まっ
ている技術委員会ですが、今年のルール改正では、一波乱あるかもしれません。
それは、元世界反ドーピング機構の会長であり、カナダのIOC委員(バンクーバーオ
リンピック組織委員会の委員も務めていました)のディック・パウンド氏が、フィ
ギュアスケートの匿名採点に苦言を呈したことや、オリンピックと世界選手権の採
点に疑問が出ていることです。
また、ロシアのプルシェンコがオリンピックで銀メダルに終わったことも、ロシア
にとっては納得できなかったことでしょう。新採点誕生に関わったラケルニク氏は、
現状に不満を抱いていると推測されますから、クリック氏とドレ氏に対して、反撃
の機会を窺っているのかもしれません。

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AP通信がオリンピック直前の2月11日に掲載した記事によると、 クリック氏が、ジ
ャッジシステムについてと、プルシェンコについて答えています。
この中でクリック氏は、古いシステムは順位をつけるだけだが、新しい採点方法は、
選手に対して課題を明示できると述べ、新採点の有効性を主張しています。また、
プルシェンコの現役復帰に伴って、彼を手本としていたシーンを研修ビデオから削
除したことについては、現役選手の映像を使用するのは問題だと言っています。

確か、キム・ヨナの3−3ジャンプを研修で使用したのではなかったでしょうか?
また、浅田真央のジャンプが悪い見本として使われた噂もありますが・・・
こうしたダブルスタンダードが存在するかのような状況が、現在最も疑問視されて
いるのです。ISUは、政治の介入を防ぐには、ジャッジの名前が公表されない匿名
採点が最適と考えました。現在は、更に匿名性を高めるように、選手毎に審判員の
並びを入れ替える事までしています。以前は、@〜Hまでの審判員の並び順は同じ
でしたから、どの選手にどんな得点を与えたのかということから、審判員の特定は
可能でしたが、現在はかなり難しくなっています。
匿名性が益々強まる中で、採点の不透明さは更に強くなっているようです。インマ
ンメール事件の影響は、ジャッジには無かったと語った記事が掲載されていました
が、オリンピックでのプルシェンコの「つなぎの要素」は、非常に低い採点でした。
インマンが送った、「プルシェンコはつなぎの要素を考えていない」というメール
が影響していなければ、なぜこうした採点になったのでしょうか?そして、公平で
あるはずのISUは、このメールを否定する声明をなぜ出さなかったのでしょうか?

こうして考えると、匿名性によって更に政治的な思惑が介入し易くなったと言える
のではないでしょうか?技術委員会はロシアが主導しているのです。彼等はオリン
ピックでのカナダや韓国の露骨におかしな採点にかなり憤りを感じているでしょう。
ロシアの芸術性を否定するかのようなクリック氏の言動も、問題視していると推測
できます。こうした状況から、2014年のソチへ向けて、戦略的な動きを活発化させ
る可能性は極めて高いでしょう。
今後、ロシアの動向には注目が集まることが予想されます。


キム・ヨナの得点


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キム・ヨナは、バンクーバーオリンピックで、世界最高得点をマークしました。

この228.56という得点がどれ程、現実的な数字ではないかを分析してみましょう。
バンクーバーオリンピックの男女メダリストの得点を下記に掲載しています。
男女間の比較を行う為、ファクターは男子に合わせてSP×1、FS×2としました。

・SPの得点   
SP  キム・ヨナ 浅田真央 ロシェット ライサチェク プルシェンコ 高橋大輔
基礎点 34.90   34.40   31.40    40.00    44.10    40.40
GOE    9.80    7.10    7.80     8.30     7.00     8.50
SS   8.60    8.25    8.10     8.20     8.20     8.30
TR   7.90    7.40    7.70     7.95     6.80     7.50
PE   8.60    8.40    8.15     8.60     8.65     8.55
CH   8.40    8.10    7.95     8.50     7.85     8.30
IN   8.75    8.20    8.30     8.75     8.25     8.70
SP合計 86.95   81.85   79.40    90.30    90.85    90.25

・FSの得点   
FS  キム・ヨナ 浅田真央 ロシェット ライサチェク プルシェンコ 高橋大輔
基礎点 60.90   55.86   58.38    74.93    75.03    70.28
GOE   17.40    8.82    4.42     9.64     7.68     3.20
小計  78.30   64.68   62.80    84.57    82.71    73.48
SS   9.05    8.55    8.60     8.20     8.40     8.55
TR   8.60    7.85    8.30     7.95     7.25     8.15
PE   9.15    8.50    8.55     8.50     8.80     8.50
CH   8.95    8.45    8.65     8.35     8.20     8.40
IN   9.10    8.55    8.70     8.40     8.75     8.65
小計  44.85   41.90   42.80    41.40    41.40    42.25
×2  89.70   83.80   85.60    82.80    82.80    84.50
FS合計 168.00   148.48   148.40    167.37    165.51    156.98

・総合得点   
総合 キム・ヨナ 浅田真央 ロシェット ライサチェク プルシェンコ 高橋大輔
合計  254.95   230.33   227.80    257.67    256.36    247.23

SS:スケート技術 TR:要素のつなぎ PE:実行力/遂行力 CH:振付 IN:曲の解釈

g02

・・・いかがでしょうか?   
キム・ヨナが男子の規定に合わせて(ジャンプ要素が1回多い)フリーで仮に2Aを
あと1回跳んだなら、合計258.45で優勝するのです(実際には2Aは跳べません)。
そもそも、男子と女子では基礎点が全く違います。フリーでは、よりはっきりした
違いがありますが、基礎点が10点以上も上の男子メダリスト達もキム・ヨナには及
ばないのです。先ず、PCSの得点が高いことに注目して下さい。FSでは、SP
と比較すると、2.6点も伸びて、平均9点へ迫る得点です。採点基準は、男女共通で
掛ける係数が異なるだけですから、キム・ヨナには男子を凌ぐ能力があると、審判
が判断を下したことになります。
また、他の選手と比較するとGOEの加点が異常なほどです。比較対象にしているのは
メダリスト達であるにもかかわらず、ずば抜けた加点です。確かにキム・ヨナのコン
ビネーションジャンプは男子に匹敵する素晴らしさですが、同じ基準であるはずの、
男子選手に対して同様の加点が無いのは、なぜでしょう。
この採点を見て、疑問を感じない人は、フィギュアスケートの中継を見ていなかった
人か、重度のキム・ヨナ信奉者のどちらかではないでしょうか?
こうして比較すると、例えばインマン・メール事件の影響があったのかプルシェンコ
の「TR:要素のつなぎ」が極端に低い得点だったり、ロシェットもGOEは高くないもの
の、PCSがいつもより高くなっていたりと、審判員に説明を求めたくなるような内
容が満載です。これを、説明しないで、匿名という安全地帯に避難している審判員は
他の競技と比較すると、やはり信頼性に欠けていると断定せざるを得ません。

g08

2010年3月にイタリアのトリノで行われた世界選手権では、浅田真央が金メダルを獲
得しました。キム・ヨナはSPでのミスが響き、銀メダルとなりました。
この試合でも、採点について大きな疑問を残す事となりました。多くのファンが思っ
ていた得点と、現実の結果に違いがあったためです。

ブログ「ときどき黒猫」では、世界選手権の終了後、4/1〜4/24の期間に採点へのアン
ケートを行いました。自己採点したものと、ISUの採点を比較して、どちらを支持する
かという内容で、自己採点のCOPも公開して行われました。

h02

  1.集計期間 : 4月1日〜4月24日
  2.公開場所 : ウェブ上(ときどき黒猫のブログ)   
  3.投票方法 : 5つの選択肢より1つを投票(重複投票禁止設定)   
  4.投票総数 : 1,238票   
  5.投票結果   
    黒猫の採点が正しい   958票(77.38%)   
    どちらかと言えば黒猫  267票(21.57%)   
    どちらも正しくない     8票( 0.65%)   
    ISUの採点が正しい    3票( 0.24%)   
    どちらかと言えばISU   2票( 0.16%)
   
素人採点が、約99%という高い支持率を得た事も驚きですが、注目すべきは、ISU
ジャッジの支持率です。1238人のうち、ISUジャッジを支持したのは、僅か5人
だけ、0.4%という誤差のような支持率の低さです。いかにジャッジが信頼を失って
いるかを証明する数字です。

g09

また、この時浅田真央の3A−2TのコンビネーションジャンプはDG判定を受けました。
競技を見ていた多くの人間や、各国の解説者が確実に回ったと判断していたのですが
テクニカルスペシャリストである、天野真氏の判断は違いました。
彼は、現在カナダ在住です。全日本選手権で優勝した経験もある、彼が尊敬していた
選手は、キム・ヨナのコーチであり、カナダでは英雄と讃えられているブライアン・
オーサー氏です。フィギュアスケート競技の最高責任者は、ISU副会長のフランス系
カナダ人、デヴィッド・ドレ氏で、彼はこの採点方式の提案者です。
同じカナダ人であり、フィギュアスケートの世界では有名人である、オーサー氏と、
ドレ氏に接点があったのは、間違いないことでしょうし、カナダ在住で、以前はパト
リック・チャン選手のコーチを務めていた天野氏も、当然この輪の中に含まれると考
えられます。
以前、キム・ヨナに対してエッジエラーの判定が出た時には、韓国では判定は誤りだ
とする検証番組を制作し、ブライアン・オーサー氏は、公式抗議ができないなら、非
公式な知人のルートを使って抗議すると述べました。この非公式ルートは同じカナダ
在住のデヴィッド・ドレ氏への依頼を示唆していると言われています。
不思議な事に、ブライアン・オーサー氏の発言後、キム・ヨナへのE判定は無くなり
ました。映像を見る限りでは、何も以前とは変化していません。多くの選手達が厳格
な基準に苦労してエッジ矯正を行う中で、ただ一人別な基準があるかのような状態が
ISUが目指している公平な競争原理なのでしょうか。

*参考にした文書などについては、資料室で閲覧可能です。











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